水道水を見直そう(上)
産経ニュース 2008年10月7日(火)
(抜粋記事)
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■冷たくて、おいしい! 「子供が飲む風景」が戻った
かつて「まずい」「臭い」といわれた大都市の水道水が、この10年で劇的に進化している。ボトル水に比べ、 格段に安く環境にも優しい水道水。地球温暖化や世界的な水不足を背景に、欧米各国で水道水への注目が高まるなか、"蛇口回帰" に向けた国内の取り組みを追った。(中曽根聖子)
≪五輪招致の鍵≫
「東京の水道水は驚くほどおいしくなった。冷やして飲めば、市販のミネラルウオーターに負けません」
東京都水道局の筧直(かけひ・すなお)調査課長はこう胸を張る。都は「水は東京五輪の招致に重要なキーワードになる」として、 英語版のポスターも作成。蛇口をひねれば安全でおいしい水が飲める都市、TOKYOを世界に向けてアピールする。
東京の水道水に苦情が殺到したのは昭和40、50年代。急速な都市化で、生活排水や工場排水が川に流れ込み水質が悪化したからだ。 その対策として都が平成4年以降、金町浄水場(葛飾区)をはじめ各地の浄水場に「高度浄水処理」を導入したことで水質は劇的に改善。 オゾンと生物活性炭を組み合わせた浄化槽で、従来の施設では処理しきれなかったカビ臭物質やアンモニアなどを除去し、 安全でおいしい水が供給されるようになったのだ。
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「すぐ近くを流れる江戸川から取水して、 6時間以上かけて安全でおいしい水をつくるんだよ」
職員の説明とともに、沈殿・濾過(ろか)などの実験で濁った水がきれいになる様子を見た児童は「水を大切に使いたい」 「きれいになって驚いた」と歓声を上げた。
日本水道協会によると、水が「まずい」といわれた大都市のほとんどが「高度浄水処理」を導入している。
だが、16年に武蔵工業大学の長岡裕教授らが全国1130の小学校を対象にした調査は、子供の"蛇口離れ"の実態を示し、 関係者を落胆させた。休憩時間などの水分補給に水道を利用している児童は約半数にとどまり、約4割は自宅から水筒を持参。 大阪や兵庫など夏場の平均気温が高い西日本各地で水筒持参率が高いことも判明した。
長岡教授は「病原性大腸菌O157の集団感染が起きて以降、水筒の持参を認める学校が増えたことや、 蛇口の水がぬるくて飲みたがらないといった事情もある」と理由を指摘する。
こうしたなか、「蛇口回帰推進計画」を展開する都水道局は、実験や寸劇を通して水道の役割を知ってもらおうと小学校を回る 「水道キャラバン」を開始した。
≪直結給水化≫
横浜市水道局は17年度から「子供たちが水道水を飲む文化を育む事業」として学校の「直結給水化」をスタート。 学校の校舎は受水槽に水をためてポンプで屋上のタンクへ水を揚げて各階に給水するのが一般的だ。ところが、 少子化で子供の数が減り土曜が休みになったことで、受水槽に水がたまる時間が長くなり、 水がおいしくないと感じる原因になっているという。「冷たくフレッシュな水を飲んでもらい、未来を担う子供に、 世界でも貴重な蛇口から水を飲める文化を継承していきたい」と布施斗志男(としお)給水課長。
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こんな願いを込めて、 水道局は市内の全小中学校の水飲み場を順次、水道管からの直結給水に切り替える工事に着手した。すでに工事を終えた学校では 「水が冷たくなった」「おいしくなった」と評判も上々。子供たちが、のどをゴクゴク鳴らして蛇口の水を飲む風景が戻ってきたという。
長岡教授は「子供のころから水道水は飲用という意識をもってもらうことが大切。ゴミや廃棄物を減らすだけでなく、湖や川、 森林など身近な自然や環境を考えるきっかけにもなる」と水道水を飲む意義を訴える。